これまで私たちは、患者様の会話を解剖し、脳の思考のみちすじ(思路)と人生の考え方の方向性を。更には意思(感情)を抽出し、構造分析と作業に対する患者様のエンジンを評価してきました。これで「この人がどんな人間か」という人柄も会話分析も100点です。
しかし、評価しただけで満足してはいけません。私たちは生活設計のプロです。
今回は、この精密な評価データを日本作業療法士協会が推進するMTDLP(生活行為向上マネジメント)のフォーマットへ流し込み、
本人の動機を具体化させる「真の合意目標」と、それを達成するための「作業設計」の具体的手法を解説します。
書類を埋めるためのMTDLPは、今日限りで終わりにしましょう。
第1章:希望的ゴール(Being)と合意目標(Doing)を切り離す

多くのOTがMTDLPの目標設定で犯す最大の過ちは、
シートの「生活行為の目標」の欄に「B型作業所に週3回通う」「自分で皿洗いができる」といった目先の作業(Doing)を書いてしまうことです。
これでは本人の「意思(エンジン)」は1ミリも駆動しません。私たちが最初に設定すべきは、
本人の希望的観測を100%反映した「希望的ゴール(Being:どうありたいか)」です。
💡 目標設定の二層構造
- 最上位ゴール(希望的観測):タワーマンションに住む社長のように、他者から圧倒的に認められ、経済的に自立している存在でありたい(Being・なりたい)。
- フェーズ1:合意目標(現実的ステップ):まずは病棟内で「PC入力担当」として週3回、ミスなくデータを納品し、スタッフから確実に感謝される(Doing・すること)
再確認:職種間の考え方の違い

- 医師・心理師:現実的な打算(病状、認知機能)から逆算して、目標を「身の丈に合ったサイズ」に縮小させようとする。これは強制ではなく、症状管理や治療の観点から業務倫理として必然である。
- OTのアプローチ:第3章で評価した「夢物語(空想)」すらも、本人の大切な作業的渇望(ニーズ)としてそのまま最上位のゴールに据える。
作業療法士が陥る展望が見えない目標設定への着地

先ほどの合意目標の「まずは病棟内でPC入力担当」と設定したとしましょう。
するとこのMTDLPは途端にその患者様の全体像が隠れてしまい、何のために病棟内でPC入力担当が設定されたか不明瞭となります。多くの作業療法士がここに葛藤し、さらには作業療法学生がイメージつきづらく、MTDLPから離脱しやすくなります。
目先の作業はゴールではなく、希望的ゴールへたどり着くための「最初の階段(フェーズ1)」に過ぎません。この構造を本人に提示するからこそ、「この作業をやる意味」を本人がイメージし、合意(動機付け)が形成されるのです。
超重要!病気によって失われたBeingを探す熱意!

しかし、病気を患いその影響で様々な逆境体験・心の傷(スティグマとも呼びます)を負った患者様が簡単にBeing(なりたい自分)を話してくれるでしょうか?
多くの患者様が未来に対して諦めの念を抱いている事も少なくはありません。むしろ、精神科の中では長期に渡る入院生活の中でBeingをイメージする機会も失われています。今の時代何ができるかわからなくなるほどに。
私達OTが忘れてはいけない事が日々の患者様との会話を重ねる事です。一つの場面では未来への考えは到底出てきません。
皆今に苦しんでいる事が多いのです。だからOTが多層場面で会話を聞き、様々なジャンルの内容を統合し会話の構造・会話の方向性・意思を抽出する必要があります。
時には、観念の内容が異常な妄想のような表現・連続性が立たれた話のまとまりがつきにくい表現も否定せずにその裏にある、意図を分析する訓練を続けてください。
足を運びながら会話を統合していく。これこそがOTにしかできない患者様のBeingを導く鍵となります。
会話の分析に関しては別の記事で解説しています。下記をご参照ください。
精神科OTの専門性を覚醒させる「会話の解剖学」:精神症状を読み解き、意味のある作業へ繋ぐ文脈抽出スキルのすべて第1章:言語のバイオメカニクス――会話を「連想の構造」から測定する
第2章:会話をマッピングせよ。観念のベクトルから人生の価値(スキーマ)をあぶり出すインテーク技術
第3章 会話から「世界観」を解剖し、生活を設計する
補足編:臨床のクッション技術――語りから「意思(感情)」を回収する対話術



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