1. 「受け皿」からの脱却と、緩やかな死を迎える「長期滞在」
精神科デイケア。この言葉を聞いて「通過型(自立支援)」という建前を信じ切っている関係者がどれだけいるでしょうか。
現実の医療市場において、デイケアは長らく法人の「囲い込みの最終産物(受け皿)」であり、経営安定のための「長期滞在」が暗黙の了解とされてきました。
しかし、この「ぬるま湯」は今、致命的な淀みを生んでいます。
診療報酬のアウトカム評価が厳格化する中、ただ漫然と利用者を滞留させる施設は、社会資源としての存在価値を失います。
マンネリ化したプログラムとそれに伴い目的意識を失った疲弊するスタッフ。
この影響で、離職に相次ぎ閉鎖に追い込まれるデイケア。ここ数年でこの現象は多くなっております。
我々は、この「緩やかな死」から目を背けてはなりません。
デイケア本来の目的や価値とはどこにあるのでしょうか?
2.今こそ立ち返るデイケアの成り立ちと本来の目的

デイケアのそもそもの起源をご存じでしょうか?
「精神科デイケアの起源は1946年の英国や1953年の日本における『患者社交クラブ』です。
退院しても社会的に居場所のなかった患者様が自分達で治療の場を形成する形で当時の医師の協力を受け、集まる場所を作りました。いわゆる「寄り合い所」です。
当時の劣悪な収容病棟から患者を解放するための『社交クラブ』としては偉大な第一歩でした。
また、デイケアとはそんな利用者が自分達にとって何が必要かを自分達で決め、それを社会において適応する為の実践の場にしていきました。
つまり、デイケアとは利用者が自分達に必要なものは何かを考え自分達で解決していくという概念があります。
この取り組みが今日の精神科デイケアの根幹にあります。
トピック デイケアの成り立ちの歴史について
【英国発祥】ジョシュア・ビエラの「ソーシャル・クラブ」1946年
オーストリア出身の精神科医ジョシュア・ビエラ(Joshua Bierer)が
ロンドンにマールボロ・デイ・ホスピタルを開設。
患者を管理対象ではなく「クラブメンバー」と位置づけ、退院後の社会的孤立を防ぐための
「ソーシャル・クラブ(社交クラブ)」として運営した。これが世界的なデイケアの原点の
ひとつとされる。
【日本発祥】浅香山病院の「患者社交クラブ」1953年
日本国内における実質的なデイケアの起源。
大阪の浅香山病院において、患者の「社交クラブ的な集団」が作られ、生活療法やレクリエーション療法が開始された。
明確に「交流と居場所の提供」が目的である。
【国の実験的導入】国立精神衛生研究所での試み 1958年
千葉県の国立精神衛生研究所(現・国立精神・神経医療研究センター)にて、実験的なデイケアが開始される。
長期入院を防ぎ、地域生活を維持するための「受け皿」としての機能検証であった。
【制度化】精神科デイ・ケア料の新設 1974年
厚生省(当時)によって社会保険診療報酬に「精神科デイ・ケア料」が新設。ここで初めて「医療」として公的に定義され、全国の精神科病院へ急速に普及していく。
このソースの社交クラブという表現は本当に言われていたのか?
3.精神科デイケアの目的を再定義し、地域を動かすデイケアに進化させる

精神科デイケアで生き残るための第一歩は、起源である、「自分達のデイケア」をどこまでスケール(拡張)できるかがとても重要です。
利用者それぞれにデイケアへのニーズ(目的)があるようにそれを取り巻くデイケアが置かれている地域にもニーズというのが存在します。
つまり、デイケアは一つの寄り合い所という形態を兼ねていますので、周辺の情報を網羅する事が役割を進化させていく重要な視点なのです。
地域の人口動態推移と既存の福祉リソースをマッピングすれば、必ず「社会資源から漏れている層(ホワイトスペース)」が浮かび上がります。
4.オープンデータが導く「デイケアの立ち位置」とマーケティング

目的を持つ為の「内」の分析
まずは、自分達が勤務しているデイケアの利用者の属性を全て把握します。
属性とは年齢・性別・疾患名・お住まいの住所などです。
この内容を一覧の表にすることが絶対条件です。
何故なら、自分の働いているデイケアがどのような方々が必要としているかがわかるからです。
その次に、アンケート調査です。
アンケート内容は、どの活動が好きか、デイケアに何を目的来ているか。
これを聞いていきます。何故なら、デイケアの役割が明確になるからです。
これらが明らかになると、
何歳代の、男性の、女性の、ここの地域の人の、治療目的・交流目的・孤立防止目的などがすべて明らかになります。どの層でどの内容が多いか又は少ないかが明確になります。
目的を持つ為の「外」の分析
地域の精神障害者の方々の動向を知る為の指標
① 「障害福祉計画」および「第7期・第8期障害福祉サービス等計画」(各自治体・医療圏単位)
- どこにあるか: 各都道府県(例:沖縄県)や各市町村(例:糸満市、豊見城市、那覇市など)の福祉課ウェブサイトで公開されているPDF。
- どこを見るか: 「精神障害者の地域移行・地域定着支援の数値目標と実績値」および「就労移行支援・自立訓練(生活訓練)の利用者見込数」。
その地域の人の動きがどうなっているか。エリア別にどこに人口が集中しているか。
② 国勢調査・人口動態統計(e-Stat)
どこにあるか: 政府統計の総合窓口(e-Stat)もしくは各都道府県のHP。各市町村のHP。
https://www.e-stat.go.jp/(e-Stat)
統計局ホームページ/令和7年国勢調査
どこを見るか: 単なる人口動態ではなく、「生産年齢人口(15〜64歳)における単身世帯の推移」。及び65歳以上の方の人口。
この内容を把握する事でデイケアの近隣の市町村又は、自身の住んでいる県域の人口がわかり、地理的な把握が可能となってきます。
point 調べたデータは表ではなく、地図にして置き換える
数字に強い方はデータだけを見て、イメージ戦略を行う事ができると思いますが、日ごろ支援業務をしている私達はすぐにはそうはいきません。
その為、必ずデータは地図にしましょう。
デイケアを取り巻く近隣のエリアを調べているのですから、地図に人口やグラフを入れていくと、物理的な環境から人の流入がわかってきます。
例えば、A市にデイケアがあるとします。A市はB市に比べ人口は多いですが、B市から圧倒的に利用者が来ているとします。これを地図に置き換えると、B市には福祉サービスがA市の2倍あり、利用者が通所する為のサービスが整っている。やA市北部は山間となっており、交通インフラが乏しい為利用は困難など、地理的な戦略が把握できます。
すると、他のデータがもっと欲しくなり、あなたの戦略地図がさらにアップデートされていきます。
5. 結論:地域の中心になれる「ハブ」機能としてのデイケア

この属性・人口動態の分析から見るデイケアの展開は、近い将来その地域がどのような未来を遂げるの展望とかなりリンクされていきます。
その為、オープンデータからデイケアを構築する事は、必然的に将来生き残る・地域に必要とされるデイケア進化へ超強力なエビデンスとなれます。
その中でデータに基づいたロードマップを構築する事で「予測可能性」という名の配給システムを
デイケアと連携する福祉のスタッフとも共有する事が出来ると、地域を取り巻く圧倒的なネットワークが形成でき、それは利用者の支援へと還元されます。
福祉のスタッフはその圧倒的なエビデンスソースを聞かないわけにはいかず、デイケアの動向に協力することが加速していきます。
デイケアは単なる「囲い込みの箱」から脱却し、地域全体の福祉需要のトラフィックを掌握する「司令部(ハブ)」へと進化するのです。
精神科デイケアの役割については他の記事で紹介しております。
精神科デイケア・パラダイムシフト:多職種カオスを「最強のスペシャリスト集団」に変える生存戦略
をご参照ください。



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