クライシスプランは患者様の為だけではない。あなたの身を守る防具です。

精神科の現場で日々作成されるクライシスプラン。
今では普及率も高くなり、現場にも浸透していると思います。
しかし、いざ患者が不穏状態に陥った夜間、そのプランが真に機能している病棟がどれほどあるでしょうか?
「イライラしたら頓服を飲む」「眠れない時はスタッフに相談する」といった抽象的なマニュアルは、危機的状況下では何の役にも立ちません。
これはクライシスプランがなくても患者スタッフ間で口頭上で、日常で頻回に行われている対処法です。
海外の最新のクライシスプランのエビデンスでは、正しい手順で作成されたクライシスプランは、
患者が自我制御を失い「非同意入院(強制的な介入)」に至るリスクに低下させることが証明されて
います。
※海外ではクライシスプランという名称を必ずしも用いませんが、類似しているツールを活用しています。
これを日本の現状に置き換えてみてください。 危機を未然に防ぎ、
あるいは危機時の対応を事前に合意しておくことは、
不要な「医療保護入院」の乱発を防ぐことを意味します。
それは同時に、状態悪化時の医療安全上・倫理上の問題を最低限に抑える為の
スタッフにとってのツールになるのです。
本記事では、多職種が現場で実際に使えるプランへと昇華させるための、
具体的な聞き取りの技術と「権利擁護」の組み込み方を解説します。
赤(危機)のボーダーライン|「他者介入」の条件を定義する

プラン作成は、本人が最も安心している「青(安定)」の状態から聞き取るのが鉄則です。
何故なら、会話の流れで安心感を担保するからです。
この内容は別の記事で解説しております。
【精神科スタッフ必読】クライシスプラン(CP-J)作成についてOTが解説!陥ってはいけない「管理」の罠と「権利擁護」を入れた「生きたツール」こちらをご参照ください。
そして次に飛ぶべき「赤(危機)」の聞き取りで重要なのは、
「他者(スタッフや家族)からの強制的な介入が不可避となるライン」
を具体的に設定することです。(多く用いられる内容は入院です。)
「調子が最悪になったら」といった曖昧な表現は避けてください。
曖昧さはスタッフ・患者個人の価値観に左右されます。
例えば、
「家から一歩も出られなくなり、食事が丸2日摂れなくなったら」
「家族に対して大声で暴言を吐き、物を投げるようになったら」
など、
医療者や家族が介入(入院や保護室などの処置)に踏み切らざるを得ない具体的な状況を
本人とすり合わせます。
「ここを超えたら、私たちはあなたの安全のために介入しますよ」
という医療側のラインを明確に提示し、事前に共有しておくことが、
後の患者さまに対しての「非同意的な強制介入」を防ぐ
第一歩です。
逆を言うと、その状態になった時、
患者様自身がどの順番をとってほしいかを先に聞いておく事が
とても重要です。
つまり、先の例で行くと
「家から一歩も出られなくなり、食事が丸2日摂れなくなったら」という赤の状態に対して、
「スタッフは入院加療を手続きする」
という同意をとったとしたら、
患者様は「入院加療の手続きの前に、家族の意見を聞き、一度自分自身に相談してほしい。」
と希望があればそれをくライシスプランに権利擁護として入れてほしいといえばそれを反映する。
という事です。
緊急時の対応を本人の意思まで入れておくことが尊厳やスタッフの倫理を守る事に繋がります。
黄(注意サイン)の設定|曖昧な状態を確認可能な「基準」に設定する

赤(危機状態)の部分の設定をした後は、ここからが本題です。
最も難易度が高く、かつクライシスプランの命運を分けるのが、
青と赤の間にある「黄色(注意サイン)」の設定です。
ここで徹底すべきは、「症状の基準設定」です。
注意サインの部分では「幻聴がひどくなる」という曖昧な表現は避けます。
本人ととことん話し合い、何がどうなったら「悪化」なのかを定義します。
先ほどの「幻聴はがひどくなる」という病状を出しますと、
「ひどくなる」という言葉にはいくつかの単位が隠れている事がわかります。
・「いつもは1人だが、3人以上の声に聞こえるようになったら」:人数の増減
・「テレビの音量を〇〇まで上げないと聞こえないくらい、頭の中の声が大きくなったら」:音量
・「声が聞こえ続ける時間が、1日1時間から半日以上になったら」:体感時間
このように抽象的(曖昧、ざっくり)な文言で留めるか、とことん具体化するかは
本人の認知状態によりますが、
「どの単位で自分の状態を測るか」を話し合う過程そのものが、自己モニタリング能力を
劇的に向上させます。
権利擁護の実装|各フェーズにおける「DO / DON’T」

具体的な状態像(青・黄・赤)が設定できたら、次にそれぞれの項目に対して
「本人自身がどうしてほしいか(どう対応してほしくないか)」を一つ一つ聞いていきます。
- 青の時: 「今のペースを崩さないよう、過剰に口出しせずそっとしておいてほしい」
- 黄の時: 「このサインが出たら、主治医ではなくまず〇〇さんに話を聞いてほしい」
- 赤の時: 「入院になるのは仕方ないが、身体拘束だけは絶対に避けたい。
そのために〇〇の薬なら飲む」
等の設定が確実に必要です。
又、これを1回の面接で終わらせてはいけません。
状態の良い時、悪い時など、複数回のセッションを通じて繰り返し対話し、合意形成を図ります。
この「もしもの時の取り決め」のプロセスこそが、現代の精神科医療において絶対的に求められる
「権利擁護」の実践です。
まとめ:クライシスプランは本人の「価値」と「人生のコントロール権」の可視化ツールである

作業療法等のリハビリテーション領域には、本人の生活行為に対する価値を評価する手技があります
これをMTDLPと言います。
クライシスプランの作成プロセスはまさにこれと同じ手順になぞらえています。
クライシスプランとは、単なる「悪化時のリスク管理マニュアル」ではありません。
青・黄・赤という状態の変化に対して、患者様本人がその状態に対してどれくらいの不安があるか、
又は、どれくらいの可能性・思いがあるかを表す事が出来ます。
危機状態においても自分の人生のコントロール権をどう保持したいのかを一つのツールに可視化した
もの。
それがクライシスプランなのです。
複数回の対話という時間はかかりますが、この「価値のすり合わせ」が完了したプランは、危機状態の
強制介入を減らし、結果的に病棟や外来の職員の接客摩擦(対応コスト)を大幅に削減する
最強の武器となります。
クライシスプランについては別の記事でも解説しております。
精神科クライシスプランの「作り方」をアップデートせよ:管理から権利擁護(CP-J)へ繋ぐ共通言語
【精神科スタッフ必読】クライシスプラン(CP-J)作成についてOTが解説!陥ってはいけない「管理」の罠と「権利擁護」を入れた「生きたツール」
こちらをご参照ください。



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