「やめて」と言えないのはなぜ?〜子供の葛藤を「できていない事」ではなく「成長のサイン」として受け止める〜

児童発達関連

ある日の車で…

「息子」
「パーパー。ほいく園行きたくない。」


「私」
「なんでね?言ったら楽しいんじゃない?」


「息子」
「おともだちがずっと僕のこと追いかけっこする。いじわるされてる。だからなんか楽しくないんだよね。」



何気ない平日の朝、私は出勤前。

いつものように4歳の長男を車に乗せ、息子のほいく園に行く道中でした。

いつもはニンテンドースイッチのゲームの話で車内が盛り上がっている息子がふと私に話した一言。

私は動じず淡々と息子に返答していました。

「私」
「だったら、そのおともだちにやーめーてって言ってみたらどう?」

「息子」
「でもな~。言っても聞かないんだよな~」


「僕は、先生に言ってその子は先生に怒られて止まるけど、また、まて~っておともだちが追いかけっこする。」

「私」
「追いかけっこしたらどうするの?」


「息子」
「パチ(叩く事)はダメだから、そのまま追いかけられてる。僕が泣いておともだちは笑っておわるんだよね。だから楽しくない」


「私」
「そのおともだちは〇〇(息子)が好きなんだよ。だから気にしないでいいんだよ~」



そしてほいく園に送り出す私。

一見何気ない会話に見えますが、今思うと私の息子の切実な葛藤に対して私は端的に片付けている。

そのような会話になっていた気がします。

その日のバックミラーからみた息子の顔は楽しい様子はなく、真剣でどこか暗さもある表情をしていました。


大人の私からすれば

「なんだ、それはお友達が遊びたいって接しているのを息子は誤解しているだけだな」

このように大人の解釈にし、子どもの訴えをものの数秒で片付けていたかもしれません。

子どもが感じている葛藤は「心の理論」という成長過程の中にある

私の息子は、おともだちが「おいかけっこしてくる」それが「いじわるしてる」という見解でした。

これが一体どんな現象なのでしょうか?



心理学の世界では、「心の理論」という概念があります。

心の理論とは、自分と他人には「心」があると理解し、それぞれ異なる独立した心の状態があることを推測できる能力があるとする理論です。

つまり、相手は自分とは違う考え、行動をしていて、それを認識している。

今回、息子が感じているのは相手は自分とは違うという概念がうまれている成長の過程だったのです。

ただ、この理論は成長とともに、より相手の行動や考えを読み取る力が長けてきます。

私の息子はこの心の理論の最初の段階である「自分と相手の行動は違う」という区別が芽生えてきたという事です。

ですが、なぜ起きているのかまでを深く考える事はできませんので、

他者の「遊びたい」という意図が解読できずに、自分の感覚とは違う考え・行動を

「いじわるされている」というわからない事象に対する防衛認識にいたったと考えられます。



私は最初、この現象を息子の単なる「思い込み」の類だと勝手に処理しようとしていましたが、

息子を発達の過程として、しっかり現象をみていくと、

日々の心の成長を単なる大人のやり方を押し付ける事で息子の選択を否定する所でした。


ではなぜ、大人の意思が子どもの意思とズレが生じるのか



私は息子に対して、一方的なアドバイスじみた都合のいい返答を。

一方で息子はそれを聞いても全く理解しておらず、ましてや苦悶な表情にまでなっていました。


この会話のズレは何だったのでしょうか?

それは、心の理論でいう、他者の行動・思考の理解を外見から一瞬で判断できる大人に対して

子どもはなんでこの子は自分と違うんだ。というラインに立ったばかりです。


大人「ただ遊んでるだけだよ」(高いレベルの解釈)>子ども「いじわるされている」(低いレベルの解釈)


端的に言うと、この構図となっている為、子どもからすると、「追いかけてくる」が 

「ただ遊んでいるだけ」になぜつながるのかわからないまま話を聞いている事になります。


つまり、相手の行動を読み取る能力の差が大きすぎる為、子どもには伝わりにくいです。

子どもの行動をいったん受け止める。ズレた会話が子どもの自信を奪う可能性

この会話のズレは、親子関係ではしばしばみられるんじゃなでしょうか?

大人が何気なく、子どもにしている会話事態がじつは子どもにとって難易度が高い可能性があります。

心の理論から学ぶべきポイントは、子どもがおともだちの事で悩んでいたら、まず、そう感じている事を受け止めることから始めてください。

大人が話す内容は無意識のうちに

【状況の把握、それに対する姿勢、それに対する対処】これをいっぺんに話している場合が多いです。

先ほどの内容でも同じように子どもは「相手は自分と違うんだ」のスタートラインです。

大人の解釈に段階をつけると、

①「相手は違うのは当たり前」

②「その子はそんな動き方、考え方をしている」

③「きっとその子にとってのスキンシップだ。息子にとっては過剰に感じているかもだけど」

④「友達づきあいだから気にさせないでおこう」

この段階をすっ飛ばして、④のアドバイスをしているという事です。

子どもからするとなんの話かもわかりません。

一番致命的なのが、大人の「気にしないでいい」は子どもにとって「相手は自分と違う」という気づきの芽生えを気にしないでいいと言われていると捉えてしまう。

それは実は、自分の考えを否定された。事に繋がります。

ここがやっかいです。

何気なくしている会話。子どもの感じ方をすっ飛ばしのアドバイスをし続けると

子どもは考えを否定され続けてしまうので、考えなくなります。

そうすると、ずっと親に答えを求めます。

明日からの声掛けの工夫

子どもの苦悩は、じつは心の成長、芽生えなのです。どんな捉え方でもまずは、

「そう感じたんだね。」や「自分で思った事を言えたのはすごいよ」

という声掛けから始めましょう。一番の安全基地は親です。

その親から否定されるという経験を減らしていき、自分で考えられる子に育つ一歩かもしれません。

私はこの経験からそう感じました。

その後の息子…

このエピソードのあと、私は息子に聞いてみました。

「私」
「そういえば、あのおいかけてくる子とはどうしているの?」


「息子」
「ああ~、あの子ね。僕があの子に何でやるのって聞いたよ。」


「私」
「それでなんて言ってたの?」


「息子」
「そしたら、最初言わないよ~って逃げたけど、もう一回きいたら僕と遊びたいからって。」

「その子が遊びたいって言うから、今は遊んであげてる。しょうがないよね。」


このような後日談がありました。


親からすると「なんちゅう上から目線。」



「それは我慢にならないか?自分の気持ちをもっと伝えてもいいんじゃないか?」


と感じましたが、

それは私の勝手な解釈であり、

かつての「いじわる」が「遊んであげてる」に考えを自分で変えているし、

負の思いから相手への許容に変換して、自分で余裕を作っているのか。



起きている現象は変わっていませんが、息子の心は確実に変わっている。

そう思い、息子も成長しているんだなと感じました。


成長を見守る大切さと、大人のさきまわりの無頓着さに、いろんな場面でハッとさせられるこのごろです。笑

本編で登場した「心の理論」。

少し難しく聞こえますが、一言でいえば「相手の立場に立って考える力(相手の頭の中を想像する力)」のことです。

これは生まれつき備わっているわけではなく、身体の成長と同じように、年齢とともに少しずつ段階を踏んで育っていきます。

お子さんが今どの段階にいるのか、目安を見てみましょう。

1. 年齢別の発達ステップ

  • 【2〜3歳ごろ】「好き・嫌い」は人によって違うとわかる
    • 「自分はこれが好きだけど、ママは違うものが好きなんだな」という欲求の違いがわかり始めます。

      ただし、まだ相手の深く考えていることまでは想像できません。
  • 【4〜5歳ごろ】「勘違い(誤信念)」が理解できるようになる
    • 本記事の息子のエピソードがまさにこの時期です。

      「自分は真実を知っているけれど、お友達は勘違いしている」という状況(誤信念)が理解できるようになります。

      他者とのズレに葛藤しながら、急速に相手の心を読もうとする時期です。

      ※私の息子はここだと思います。
  • 【6歳〜学童期】「皮肉」や「言葉の裏」がわかる
    • 「もう、しょうがないな〜(本当は嬉しい)」といった、言葉通りの意味ではない

      相手の複雑な感情や、冗談を理解できるようになっていきます。

2. うちの子はわかる? 有名な「サリーとアンの課題」

子どもが「相手の勘違い(誤信念)」を理解できるようになったか(心の理論が育ってきたか)

を確かめる、世界的に有名な心理学のテストがあります。

ぜひ、お子さんにこんなお話を読み聞かせて、質問してみてください。

【おはなし】

  1. サリーちゃんと、アンちゃんが部屋にいます。
  2. サリーちゃんは、自分の「カゴ」にボールを隠して部屋を出て行きました。
  3. サリーちゃんがいない間に、アンちゃんはボールをカゴから出して、自分の「箱」に
    移し替えました。
  4. サリーちゃんが部屋に戻ってきました。ボールで遊ぼうとしています。

【質問】 サリーちゃんは、まず「カゴ」と「箱」、どちらを探すでしょうか?

【答えと解説】

  • 「箱!」と答えた場合(3歳〜4歳前半に多い)
    自分が「ボールは箱にある」という真実を知っているため、サリーちゃんもそう思っているはずだと考えます。「相手の頭の中(勘違い)」を想像するのはまだ少し難しい段階です。
  • 「カゴ!」と答えた場合(4歳後半〜5歳以上に多い)
    「自分はボールが箱にあると知っているけれど、サリーちゃんは移し替えられたのを
    見ていないから、最初のカゴを探すはずだ」と、
    自分とサリーちゃんの頭の中を切り離して想像できています。
    「心の理論」がしっかり育ってきている証拠です。

子どもの「いじわるされた!」「なんでわかってくれないの!」という葛藤は、この「相手と自分は違う」という複雑な世界に足を踏み入れた大切な成長のサインです。
大人の正論ですぐに解決しようとせず、まずは一緒にその葛藤に寄り添ってあげたいですね。

この要約の参考文献

小川絢子・子安増生 (2008)『幼児における「心の理論」と実行機能の関連性』(発達心理学研究)

小川真人・高橋登 (2012)『幼児の役割遊び・ふり遊びと「心の理論」の関連』(発達心理学研究)

参考文献

小川絢子・子安増生 (2008). 幼児における「心の理論」と実行機能の関連性: ワーキングメモリと葛藤抑制を中心に 発達心理学研究, 19(2), 171-182.

小川真人・高橋登 (2012). 幼児の役割遊び・ふり遊びと「心の理論」の関連 発達心理学研究, 23(1), 85-94.



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