なぜ黄色のサインを「ミクロな症状」だけで見てはいけないのか?

多くの現場で、クライシスプラン(CP-J)の黄色サイン(注意サイン)は「眠れない」「イライラする」
といった、体調が崩れ始めてから初めて気づける項目で埋まっています。
これ自体は間違いではありませんが、この作り方だけでは、
CP-Jは「症状が出てから慌てて対処するための道具」になってしまいます。
私はこれまでクライシスプランを200人程度の患者様に作成してきました。
これまで関わってきたケースのうち、ミクロな症状だけを黄色サインにしていたCP-Jが、
実際に「サインが出た時もクライシスプラン使わなかったよ」という声を私は何度も聞いてきました。
ミクロな黄色サイン(不眠・イライラ)だけを見る運用の限界

「眠れない」というサインが出た時点で、実はその数日前から本人の中では
別の変化が起きていることが少なくありません。
それが今回お話しする「長期的な楽しみへの意欲」の変化です。
形だけのCP-Jが実際にどう機能しなかったか
私が以前作成したクライシスプランは以下のような構造でした。
クライシスプランを作成した事のあるスタッフは馴染みがあると思いますが、

これがいわゆる形だけのクライシスプランという物です。
あるあるを並べて、具体的にそれがいつなのかが全く把握できないプランとなっています。
私は過去にこのクライシスプランを作成し、対象の方に渡すだけという形式で行いました。
当然、このプランの見方や活用法なども話し合いが不十分であった為、対象の方からは
「黄色の眠れないなんてだいたいあてはまるから見る必要もないし、見ても普段起きてるから見なかったよ」
このような結果に至りました。
この方に対するクライシスプランはその程度の価値に成り下がった。
と言う事です。
WRAPの「道具箱」とCP-Jを連動させるという発想

WRAP(元気回復行動プラン)には「道具箱」という考え方があります。
これは日々の対処法の引き出しのようなものです。
私はここに、年単位・月単位の「長期的な楽しみ」も一緒に入れることを勧めています。
年・月単位の「わくわくする目標」を書く場所を変えるだけで何が変わるか

道具箱をCP-Jとは別のシートにせず、あえてダッシュボードの一番上に置きます。
これだけのことですが、面談のたびに「今の自分」と「半年後にやりたいこと」を
同じ視野に入れられるようになります。
道具箱とCP-Jを切り分けない設計思想
分けて管理すると、道具箱は「たまに見返すもの」になりがちです。
連動させることで、日々のCP-Jの記入が、そのままわくわくする目標への進捗確認になります。
【実践】わくわくする目標と秒単位の対処をつなぐ会話のやり方

以下は、実際の面談で使っている問いかけの例です。
※これはあくまで一例です。目の前の方の言葉に置き換えてご活用ください。
STEP1 青(安定)──道具箱と日常の切り分け方

半年後・1年後にしてみたいことを尋ねる

OT: 「もし今の安定した状態がずっと続いたら、半年後や1年後、どんなことをしてみたいですか?」

患者: 「家族と一緒に海に行ってBBQがしたいな。」

OT: 「それを私たちの『道具箱(一番の目標)』として、シートの一番上に書いておきましょう。これがすべての土台になります。」
【週・日・時間・分・秒の視点(CP-Jへの直接記入)】

OT: 「そのBBQに行くために、普段の『一日』や『一週間』の中で、できていること、リラックスできている時間は何ですか?」

患者: 「週に3回は散歩してるし、夕食後にコーヒーを飲んでる時かな。」

OT: 「もっと短い時間、『数分』や『数秒』で一息つける瞬間は?」

患者: 「深呼吸を3回するとか、好きな写真を見る(数秒)とかかな。」
STEP2 黄(注意サイン)──「意欲の低下」を最強の黄色サインにする

ここが今回一番お伝えしたいポイントです。
「調子が崩れる前、実は一番上の目標への気持ちが変わったりしませんか?」と尋ねてみると、
「BBQなんてどうでもいい、準備がめんどくさい」というように、目標への無関心という形でサインが現れることがあります。
これは私の経験の中で見つけた気づきの一つであり、すべての方に当てはまるものではありませんが、症状よりも早く現れる変化として意識しておく価値はあると感じています。
以下が例題です。

OT: 「調子が悪くなる時って、実は『眠れない』というサインの前に、一番上の目標(道具箱)への気持ちが変わったりしませんか?」

患者: 「あ…そういえば、調子が落ちる前は『BBQなんてどうでもいい、準備がめんどくさい』って思い始めますね。」

OT: 「まさにそれです! それを『最大の黄色サイン』として書きましょう。それが来たら、秒単位・分単位でどう対処(コーピング)しますか?」

患者: 「BBQのことは一旦忘れて、とりあえず目を閉じて10秒数える。頓服薬を飲む(数分)。」

OT: 「私たちスタッフも、あなたが『BBQなんてどうでもいい』と言い始めたら、それは黄色のサインだと受け取って、『今は何も考えずに休もう』とだけ短く声をかけますね。」
【現場から】このサインに気づけなかった過去の失敗
先ほども述べたように、目標に対してのクライシスプランでなければ、続ければ続けるほど
スタッフも患者も「毎日何をしているんだろう」
という疑念が浮かびます。それは当然の事で教科書的な健康状態を維持する
という考えは実は、ゴールのないマラソンをしているのと等しくなります。
これでは、患者が自身の健康管理に対して自立した考えになる事は難しくむしろ
プランから離脱してしまいます。
STEP3 赤(危機)──アドバンス・ディレクティブとの接続

黄色のサインが赤(危機)に近づいた場合にどう対応するかは、
事前に本人・家族・医療者の間で合意しておく必要があります。
実は、クライシスプランで重点的の紹介されやすいのはこの部分です。
この赤の時の対応について重点的になるのはそれだけ、患者の対応についてを
医療側がないがしろにしてきた歴史があるからと個人的に考えています。
また、非同意の入院を防止する為のクライシスプラン活用はエビデンス的にもとても有用です。
しかしながら、クライシスプランは赤の部分の権利擁護だけを強化してしまうと、
患者・スタッフ共に、赤を中心に対応に重きをおいてしまいます。何度も言いますが、
青(わくわく)で引っ張るようなクライシスプランがリカバリーに近づきます。
ここは医療の限界と本人の権利を丁寧にすり合わせる領域であり、一律の正解はありません。
この赤の部分に関しては、アドバンス・ディレクティブという考え方で展開していく事が大事です。

OT: 「今のような調子良い状態を続けるのが一番ですが、万が一、病状がすごく辛くなって、自分をコントロールできなくなってしまった時(赤の状態)の話をさせてください。」

患者: 「……はい。」

OT: 「私たち医療者は、あなたや周りの安全を守るために、どうしても一時的に隔離をしたり、お薬をお願いしたりしなければならない時があります。これは約束としてお伝えします。」

OT(ここからが重要): 「でも、その『どうしても介入が必要な時』に、『これだけはされたくない(絶対に嫌なこと)』や『こういう声のかけ方なら安心する』という希望はありますか? 事前に教えておいてほしいんです。」

患者: 「いきなり身体を触られるのは絶対にパニックになるからやめてほしい。あと、男性スタッフばかりで囲まれるのは怖い。話しかける時は、ゆっくり名前を呼んでほしい。」
完成例はこれです。

簡易的ですが、このように目標ベースでクライシスプランを作成する方法が生きたツールになります。
わくわくする目標は一つでは危険──複数化という保険

単一目標のリスク
もし目標が「夏のBBQ」だけだった場合、雨で中止になったというだけで大きな喪失感を抱き、
そのまま黄色のサインに直行してしまうことがあります。
季節・状況ごとに複数のわくわく目標をストックする
「冬は鍋を囲む」「日帰りドライブに行く」など、
複数の楽しみを道具箱にストックしておくことで、一つがダメになっても別の選択肢に切り替えられます。
なぜこの方法が「自然なSST」になるのか

青(安定)の段階で具体的な場面を想定して分・秒単位の対処法を語り合うこと自体が、
実は最も強力な予防線になります。
「渋滞でイライラした時、車内でどう対処するか」といった具体的な場面設定は、
面談そのものが臨場感のあるSST(生活技能訓練)として機能する
という副次的な効果があると感じています。
最大の臨床的課題──「伴走」から「自走」へ移行できるか

CP-Jは完成して終わりではありません。
本当のゴールは、患者さん自身が新しい北極星を見つけ、自分でCP-Jを書き換えていける状態です。
ただ現実には、スタッフ側の「過剰な伴走」が続いてしまうこともあります。
【要:自走に移行しやすいチーム/しにくいチームの分岐条件をあなたの経験から1つ記入】
私たちが作るべきは、患者さんを縛る安全管理マニュアルではなく、
いずれは「このツールがなくても自分で自分の機嫌をとれる」状態に向かうための、
一時的な補助輪だと考えています。

クライシスプランの活用法については別の記事でも紹介しております。
クライシスプランの「生きたツール」にする作成手順の解説!注意サインの具体的な設定と権利擁護の組み込み方 – 沖縄作業療法士パパブログ
【精神科スタッフ必読】クライシスプラン(CP-J)作成についてOTが解説!陥ってはいけない「管理」の罠と「権利擁護」を入れた「生きたツール」 – 沖縄作業療法士パパブログ
是非ご参照ください。



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