【支援者必見】クライシスプランの権利擁護は単なるワガママか⁉治療関係を守る「境界線」の引き方

精神科関連

クライシスプランは本来、危機にいる本人が、判断力が揺らいでいる状態でも

「自分らしい選択」を守るためのツールです。

最近では、このプランは患者の思いを反映するいわゆる権利擁護を含めた計画書となっています。

それが、CP-J(クライシスプランjapaneseversion)です。
詳しくはこの記事を参照ください。
精神科クライシスプランの「作り方」をアップデートせよ:管理から権利擁護(CP-J)へ繋ぐ共通言語 – 沖縄作業療法士パパブログ

この考え方でクライシスプランを制作すると、より権利擁護を意識しやすいですが、

権利擁護に着眼点をおいてくるといつのまにか「本人の要求をすべて飲む契約書」にすり替わり、

スタッフ側だけが疲弊していく。そんなパターンが起きてしまいます。

この記事では、クライシスプランを「利用者の要求したいリスト」にせず、

本人とスタッフ双方を守る「境界線」の引き方を、現場での試行錯誤も含めてお伝えします。

なぜあなたの職場のクライシスプランは機能しないのか?

「I(私)」のプランと「We(私たち)」のプランの決定的な違い

クライシスプランがうまく機能しないとき、多くの場合そこには「I(私)」の視点しか存在していません。

典型的なのは、スタッフ目線での患者の状態だけを記載した建て前のクライシスプランです。

「調子がわるくなったら頓服」「幻聴が聞こえたらスタッフに相談」

などのようにスタッフ目線でのクライシスプランは実際にどの場面がその項目に該当するかが

記載されておらず、結局使いません。

一方、患者や利用者の意見を尊重したクライシスプラン。

一見聞こえはいいですが、使う側の人の意見を反映しすぎると、

「調子が悪くなったら頓服は眠くなるから使いたくない。だからと言って診察もしたくない

「家族に相談すると怒られるから自分が制御不能になった時のみ関わってほしい。」

このような権利擁護を設定するとどうでしょうか?

本人の希望を一方的に書き出したものは、たしかに本人の意思表明としては意味があります。

ただ、それだけでは「プラン」ではなく「要望リスト」にとどまってしまいます。

機能するクライシスプランには、必ず「We(私たち)」の視点が入ります。

本人の希望と同じだけの重みで、

「支援者としてここまでは応じられる」

「ここから先は対応できない」

という現実的な約束が、対等な立場で書き込まれているかどうか。

ここが分かれ目です。

【警告】単なる「リスク管理」や「一方的な要求リスト」への堕落(私の失敗談)


私自身、過去にクライシスプランを「リスクを回避するための書類」として運用していた時期があります。

危機が起きたときにスタッフが責任を問われないよう、対応手順を細かく決めておく。

それ自体は否定しませんが、これでは本人の意思よりも業務上のリスク管理が主役になってしまいます。

逆に、本人の希望をすべて丸呑みして作ったプランも、別の形で破綻しました。

「絶対に入院させないでほしい」という希望を字面通り約束してしまい、

いざ本当に危険な状態になったとき、その約束が本人の安全を守る判断の足かせになったのです。

どちらの失敗も、根っこは同じでした。「境界線」を最初に話し合っていなかったこと。

大変な状態の中で「本人の意思」を守る事前指示(ACDs)の本当の役割

尊厳を守りつつ、非自発的入院を半減させる効果

事前指示(Advance Care Directives、以下ACDs)は、本人がまだ落ち着いている「凪」の状態のときに、

危機時にどうしてほしいかをあらかじめ言語化しておく仕組みです。

私が実際に関わってきたケースの範囲では、ACDsをきちんと整えて運用したケースほど、

危機時な状態に陥った時に、「調子はわるくなったけど、話し合っててよかったね」と

心の安心につながったケースは多いと実感しています。

皆が皆、全て上手くいくという事はできませんが、

少なくとも「本人が落ち着いているときの意思」が事前に共有されているだけで、

危機時にスタッフが本人の代わりに判断を下さざるを得ない場面は

目に見えて減っていきます。

ここで大切なのは、ACDsは「入院を避けるための道具」ではなく、

「本人がまだ自分の言葉で語れるうちに、自分という存在の守り方を決めておく」ためのものだという位置づけです。

この順番を間違えると、また「ワガママ要求」に逆戻りしてしまいます。

治療関係を飛躍的に向上させる「共に備える」スタンス

ACDsを作る過程そのものが、実は治療関係を大きく変えます。

危機が起きてから対応を決めるのではなく、穏やかなときに

「もし次に危機が来たら、どうしましょうか」と一緒に考える時間を持つこと自体が、

「あなたを管理する人」から「あなたと備える人」へと関係性を変えるきっかけになります。

支援者自身を守る「安全な境界線」の作り方

①「対応の限界」を明確にする(できること・できないことの線引き)

境界線づくりの第一歩は、スタッフが「できないこと」を先に決めて言葉にすることです。

曖昧なまま「出来る事を書いていきましょう」で始めると、

危機のたびにその場しのぎの対応が積み重なり、いつの間にか超無難なプランが出来上がります。

境界線を引くという事はこのような実例です。

「夜間体調が悪くなった時、私は対応できませんが、その時のスタッフで対応していいですか?

「退院先でスタッフに要求の伝え方に迷った時、私が直接の対応が難しい時は私以外の他のスタッフの連絡先も準備しましょうか?」

このような形で話し合ったりします。私達も業務時間の中でパフォーマンスするわけなので、

その限界点を開示して話し合う事が大事です。

「できない」を先に、穏やかな言葉で伝えておくことが、プランの離脱や関係性悪化の防止になります。

②「避けてほしい関わり」を事前に共有する

境界線は本人だけが決めるものではありません。

支援者側からも「こういう関わり方はしたくない」「こういう場面では対応が難しい」と、

事前に率直に伝えておくことが必要です。これが一例です。

「調子が悪くて動けない時にスタッフに代理で薬を取ってくる事を要求してほしくはないです。これが癖になると代理行為事態が支援になりそうです。」

これは本人を突き放す言葉ではなく、「お互いが冷静でいられる関わり方を一緒に決めましょう」

という提案として伝えることがポイントです。

③「安全確保のための例外時の動き方」

物事には必ず例外があります。

命に関わる危険がある場合は、事前の約束より安全確保を優先する

この一文を、本人が落ち着いているうちに合意しておきます。

大切なのは、この例外を患者にとっての「隠れた抜け道」にしないことです。

どんな状態になったら例外を発動するのか、発動したあと誰が・いつ・どう説明するのかまでをプランに明記しておく。

これにより、いざというときにスタッフが「約束を破った」と受け取られるリスクを減らし、

本人にとっても「なぜその対応がとられたのか」を後から理解できる材料になります。

危機(クライシス)は失敗ではない!プランを「生きた道標」に育てるSDMサイクル

症状管理を目的にせず「望む人生」に紐づける

クライシスプランを使わない大きな原因のひとつは、

「症状を出さないこと」自体が目的になってしまうことです。

しかし本来プランが守るべきなのは、症状の有無ではなく「その人が望む生活」のほうです。

「次に調子を崩したとき、何を諦めたくないか」を本人に問い直す。

そこから逆算して対応を決めると、プランは単なる予防マニュアルではなく、本人の人生の続きを守るための道標になっていきます。
詳しくはこの記事を参照ください。
クライシスプラン(CP-J)の生きた活用法|「わくわくする目標」で黄色サインを見抜く

完璧な計画より「共に考え続ける関係性」の継続が危機管理

どれだけ精緻なプランを作っても、危機は想定通りには起きません。

だからこそ、プランの完成度よりも、危機が起きるたびに「今回はどうだったか」を一緒に振り返り、

更新し続けられる関係性のほうが、実は最大の危機管理になります。

危機は失敗ではなく、プランを本人に合わせて調整していくための材料です。

この視点を支援者自身が持てているかどうかが、

クライシスプランが「生きた道標」になるか「パターン化した書類」になるかの分かれ道だと感じています。

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